また戦争の本かよ!と言われそうですがたまたま図書館検索してるとひっかかってくるのがこういう本なんですよねぇ、、、
もともと、自己啓発というか自己分析?の記事で紹介されていた本です。
そうです。戦争がメインの話ではありません。
少年兵士の本ほど、むごたらしい戦いそのものについては触れていません。
この本の著者は心理学者で、アウシュヴィッツに収容されていた人です。この戦争がもたらした残酷な状況が前提としての話なので、収容所の悲惨な状況自体の描写はあります。
実は、「収容されていること自体」はそれほど恐ろしくはないんです。
ガス室は恐ろしいことですが1回で終わってしまうので、著者のように生き延びてしまう場合、今度はこの悲惨な状況で生きていくことの苦悩が待っています。
問題は、実は
飢餓
だったりします。
第二次世界大戦の終盤のドイツは負けがこんでいてひどい状態だったようです。要はもうお金も物資も食べ物も殆ど底を尽いてしまっていたのですね。なので、収容所に人を入れる割には食べ物が殆ど与えられません。女性の私でもこれはきついというレベル。ましてや、彼等は成人男性ばかりです(収容所は男女別)。
その状況下で毎日、土木工事をやらされるのだそう。(しかも寒いらしい)
どうやって生き延びたのか???
著者が言うには、「人間は割と丈夫」なんだそうで…でもその苦痛を想像するに私だったらあっさり死んでしまいそうです。
という私の軟弱な発想が。
実はヒントでして。
これが生死をわけます。
肉体は意外と耐えられるものだ、と著者は言いました。
実を言うと、「まだいける。まだ生きられる」という意志が人間を生かしているそうです。
実際、収容所であまりの厳しさに「生きることを放棄する」人間が出てくるそうです。
しかしそうなってしまったら、その人は確実に、死にます。
むろんそうでしょう。 病気がひどくなってくると、ガス室送りはまぬがれないですし、それでなくても終盤は飢餓そのもので人が倒れていく始末です。
それでは、「それでも生きたい」と思うにはどうしたらよいのだろうか?
著者は心理学の側面から、収容所の仲間に「なぜ生きるか?」を説いていきます。著者ですら、生存競争においては時に人を裏切らなければいけないと知っていても。心理学という学問に対する彼の愛情。それは医者としても、人間に対する愛情に他ならないのだと、その愛情の深さには感激するものがあります。
以下は彼が「生きる理由」を考えるにあたり残した、印象的なシーンや言葉です。
■飢餓状態でフラフラな状態で極寒の仕事場に列を作って進む時、ふと仲間が「奥さんがこの姿を見たらどう思うかな」と皮肉を言います。
ここで男性陣は自分の奥さんを思い出すわけですが…実はこれが愛情の究極の姿なのだと、彼は言います。
前にTVを見ていたら、黒柳徹子さんがあの淡々とした口調とポーカーフェイスでペラペラとしゃべりだしました…とても重要なことを。「愛情っていうのはね、相手がいなくなっても心に残るもんなのよ」と。もうちょっと感慨深く語ってもいいだろ、って思いますがそこが黒柳さんのすごいところ。「それが普通なのよ」と言わんばかりですが、語る相手が若者だったので「ちゃんと恋愛しないとダメよねぇ」と天気でも語るような口ぶりです。
やっぱハンパじゃない人だなと思いました。
生きる理由の一つはこれなのでしょうね。本当は誰かが待っていてくれれば一番良いのですが、著者にはその人の生存がわかりません。それでも彼には、奥さんがいるのです。心の中に。
それだけで、彼は何日も生き延びることができたようです。
願わくは、世の中の恋愛というものが、全てこういう状況だったら良いのですが…芸能人のゴシップばかりが流れてくる世の中。そんな安いものではないと思いたいですね。つうか、6股かけてるとかそんなのヒトじゃないですからね。動物ですから。
■収容所では動物のように…いや家畜以下のように扱われる彼ら(働かされる割に食事は満足に与えられないので)。この状況下で感情を失っていく人間が人間らしくいるためには何が必要なのか。
印象的だったのは、「どんな力もあなたの経験を奪うことはできない」という言葉。
前の話とちょっと似ていますが、自分が経験して培ってきたことは権力によって奪うことはできません。「心の宝」とそれは表現されていますがその通りです。それをささえに生きているもの…それは物質ではなく心の豊かさに直結します。幸い目には見えないので奪うことはできません。
それさえ理解していれば、希望を失わずにいられるでしょう。
著者も自分の論文を取りあげられた状況でありながら、内容はすべて覚えていました。そしてその論文を完成させるため、希望を持ち続けるために収容所の中で書きつづったのだと言います。
記憶、そして経験というのは人間を形づくっていくものなのだなとつくづく感じます。そのためにも我々はつねに経験を積み上げていかなければなりませんね。
■世の中には「まともな人とまともじゃない人」の2種類しかいない
これはささりましたね。確かにそうです。収容所のような極限状態にあると特にそれが顕著に出るようで、著者は冷静にそれを観察しています。親衛隊は「基本的」には収容者を殴る、とされていますがそうでもない人もいて、パンを差し出してくる人もいるのだそうです。
各々が「個人」であり、個性があり、彼らの良識は所属する団体のものではなく、各個人の意志なのです。
逆を言えば表向きは仲間だとされている同じ組織の中にもたまにとんでもない人がいます。いわゆる「まともじゃない人」です。
その辺を理解していると、社会で生きやすいのではないかなと思います。
価値観の多様性と、個の尊重。
私はどんな批判を受けようと自分の選択を貫く、ということを何度かやってきました。その際、私は自分にいつも誓っていたことがあります。「意見は聞くが批判はまともに受けない」。
幸い日本人という人種はあまり正面からぶつかってこないので、陰口と奇異の目線を目線で押し返す程度しかしていませんが。
色々な人がいる。まともじゃない人もたくさんいる。そんなのいちいち相手にしていられない。全員に好かれようというのは間違いです。だってまともじゃない人もいますから。敵ではないのです、相手にしないということです。
この本は人間の心理面において極限の状態から解き明かしていて、非常に良い本だと思いますが…大半のことは私の理解の範疇にあったのでちょっと出会うのが遅かったかな、という感じもするので
若い方にお勧めしたいと思います。高校生~大学生くらいかなあ。
戦争の話だから感動的だとか、そういうレベルでは無かったのがとてもいい作品だと思います。著者が学者でなければあの状況を冷静に分析し説きあかすことは困難だったでしょう。
極限状態に置かれることそのものに恐れを抱くのはきっと間違いでしょうね。もちろんそんなつらいことは経験しないほうがマシに決まってますが、
私も、いくつかの極限にヤバイ状況を潜り抜けたり、自力で抜けだすことによって学んだ「経験」はもはや何物にも替え難い宝と言えると思います。
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