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公式が画像使ってくれと言っているので |
今年の映画はなかなか良いラインアップが来ているものの、「これだ!」と言う映画はまだ出会っていなかったのですがこの「異端者の家」は、今のところトップランクに躍り出た感じですね。予告編では宗教勧誘をいじめるヒューグラントと言う構図しか分かりませんが、もっともっと奥が深いストーリーでした。
あまり期待していなかったものの、映画館に足を運んだ理由は、やはりA24には今後もぜひ頑張ってオリジナル作品をどんどこ出して欲しいという期待があったのと、ある程度のクオリティを期待できると思ったから。
A24の特徴としては、やはり残酷な映画が多いという側面がありますが、今回もそうではあったのですが、私に言わせればA24にしては残酷シーンはかなり控えめでした。まあ、血は出ますけどね。
ロジカルなレスバトルが知的好奇心を刺激する!
モルモン教は積極的な宗教勧誘が特徴です。
この映画では若き信徒の二人の女性が、リクエストがあった家に勧誘に出向きます。リクエストされて行ったものの、不快な質問を浴びせられ、女性がいなければ家に入れないと言っているのに一向に「妻」が出てこない家で、怪しいおじさん「Mr.Reed」と知識やロジックのバトルを始めます…!
明らかに嘘をついているミスターリード。信仰を揺るがすロジックと、それの穴を突くシスターバーンズ。どこまでが嘘で、どこからが本当か。謎解きに近い会話の応酬を楽しめます。セリフ量が多いので目が離せません。それから、ヒューグラントの細かいリアクションからも目が離せませんので、注意。さらにいうといちいちアイテムや伏線とかも要注目です。
特にブルーベリーパイにはまいりました。というか、パイってホラー映画に使うとただひたすら怖いですよね…
ホラー映画としてもテンポが非常に良い
最初こそ、不快な質問ややけに詳しい宗教の知識など、焦らした応酬がありますが、割とテンポよく、女性の二人も逃げ道を探したり、咄嗟の言い訳を考えたりと、応酬にも緊迫感が乗ってきます。
また、ヒューグラントのセリフ量が多く、畳み掛けるように信仰をゆらがしてくるので、飽きるということはありませんでした。
しかもこの家、奥に行くほど何かあるのです。これは、クワイエットプレイスというよりは、「ドントブリーズ」みがありました。
ホラー脱出ゲームのような、次の部屋に何があるかわからない怖さ
結局映画を見ていても家の構成はわかりませんでした(笑)が、ドアが次々に現れ、ノブが違ったり、隙間が空いてたかと思うと実はどっちからでも同じところに行けたりと、訳がわからない怖さがあり、なのにドアの向こうに何があるか知りたいという好奇心。ちょうど良いバランスで引き込まれます。特にバーンズが左の扉を開けて一回閉めたのが面白かったですw
ヒュー・グラントのキャラクターがとんでもない。怖い。
ヒューグラントといえば、ハリウッドではラブコメキングとして一世を風靡したキザなイケメン俳優です。おそらく隣に座っていた中年外国人女性グループは、ヒューグラントのファンだと思います。
私は「Two Weeks Notice」が大好きで、何度見ても爆笑です。しかもこの映画、「ラブコメの女王サンドラ・ブロック」との共演。どっちもめちゃくちゃ笑えるキャラでした。特にライバル女に「遊び」を持ちかけられて「Oh, Pokemon?」ととぼけるヒューがいまだに忘れられません。
今回も玄関のドアを開けるなり、フレンドリーな甘い笑顔と、イケボで陽気な会話。何一つ邪気を感じないのですが……
これが徐々に邪悪さを露呈し、最終的には笑顔でとんでもないことをしでかすサディスティック帝王に変化します。ギャップがものすごい怖いので、ヒューグラントはいいおじさん!と思っている人にはお勧めできません。
逆にこれだけ、笑顔でチャラいからこそ、詐欺師感が説得力あるとも言えます。
ジェンダー問題にも少し絡んでくる、「リードが信じる、ただ唯一の宗教」
リードが信じるという唯一の宗教は、最後に明かされますが、私はこれ、男性の持つ悪い側面をそのまま宗教にしたのでは?と思っています。
リードの過去は明かされていません。
ですが、浅いロジックで若い女性を論破しようとしたり、束縛して帰そうとしなかったり、平気でホイホイ嘘をついたり、サディスティックな行動を起こしたり。
まるで性的なことには興味がないのですが、あのマンスプは典型的な嫌な男の悪い癖ですね。
この作品、最後まで見ると、さらにこのリードが「悪い男」の典型であることがわかってきますのでぜひ見ていただきたい。
シスター・バーンズの勇敢な美人キャラが最高
シスター・バーンズは最初にリードに反論した勇敢なキャラクターです。とにかく美人だしかっこよかった。しかしだからこそ、リードには狙われます。
あと彼女は少し、モルモン教徒らしくないところがあるなと思いました。仕方なく入っているのかな?
連続するどんでん返し
対してシスター・パクストンはよく日本にもいる、「男に合わせて笑顔でご機嫌を取っておけば殺されない」と考えるタイプです。正直だめなんじゃないかなと感じましたが、終盤になって本気を出しますのでお楽しみに…終盤の活躍は、彼女が従順で意志が弱く、臆病だからこそ感情移入もしやすいし、恐怖感が増して大変スリリングです。
ギリギリまで、結末がわからない、秀逸な脚本
私は最後まで、彼女らが生きて帰れるのかさっぱり予測がつきませんでした。A24であれば最悪なエンディングも十分あり得るからです。非常に緻密な脚本で、逃げる逃げない、攻撃するしない、彼女たちの、ある種冷静な知能戦が、勝てそうで勝てない、何かに騙されているという細かいディテールの詰め込みでありながら、筋が通っていてスッキリする内容でした。
そして宗教を扱う作品として、私が感じたことです。
エクソシストのような、対悪魔系ホラー映画は、純粋なキリスト教徒の話になります。キリストを信じているからこそ、悪魔が悪になる訳です。信仰が厚くなければ成り立ちません。
ですが、今回は宗教の根底を揺るがそうという男を、「異端者」としています。
その異端は、決して悪魔を勧めているわけでもなく、悪魔にも取り憑かれていません。
信仰とはなんなのか?終盤でパクストンが唱えることが真実だと思います。奇跡とは決して、傷が癒えるとか、死から蘇ることではないんですよね。
パクストンすら、祈りに効果はないとはっきり言及しています。盲目ではないのです。では信仰とはなんなのか?それは自分の生きる上での信条や選択を信じることだと、私は思っています。リードが言っているような、「キリストをヒーロー扱いすること」ではないと思っていますし、盲目に聖書を信じることでもないと思います。
非常に奥の深い内容で、ロングレッグスのような妙な悪魔論や奇蹟にも頼らず、リアリティやロジックがある、良質な作品でした。