これから観るという方は読まれないほうがよろしいかと思いますのでよろしくお願いいたします。
非常に情報量の多い映画だったので、ざっくり気になったポイントだけかいつまんで感想書こうと思います。
全体的な感想としては、別にすごく好きな映画ではないですが、「村上春樹さんの世界ってこんな感じかあ」と思いました。実は読んだことがないですw
それから、全体的に村上春樹的な、ちょっと文学的すぎるセリフが多かったのが気になりました。「ドクター・スリープ」もそうでした。だけど、ドクタースリープは奇妙な作品なので、それが味にはなってたと思います。まあ、でも確かに、あんまり普通の言葉でしゃべると陳腐にはなるかもしれないな。
コミュニケーションについての問題
私が特に気になったのはコミュニケーションにおける問題点にフォーカスしている箇所が多かったなというところです。
特に印象的なのは、若い男性「高槻」。村上春樹の作品は必ずセックスが入るといわれていますが、高槻はセックスを通さないと女性とコミュニケーションがとれないと思っています。それを主人公の家福は厳しくとがめます。
女性視点から言いますと、過去の彼氏は特にそうでしたが、セックスを何回かするともうそれで相手の女性を全部知り尽くしたと勘違いする男性がいるようです。つまり興味を失い、飽きてしまう。私はとてもガッカリしましたね。彼には私の半分も教えないまま、ガッカリしたまま別れを告げました。
そしてもうひとつは、国際的なコミュニケーションと手話です。これについては次の項目で語ります。
インターナショナルな上に障がい者が参加する特殊な演劇
主人公は舞台演出家であり、自分で舞台に立つこともあります。この点においては、視聴者で好みがわかれそうです。私は舞台もたまに見るので楽しいものがありました。舞台裏って面白いですよね。
舞台は、多くの場合は上演される国の言語に合わせるのが普通ですよね。私が、日本でミュージカルをほとんど見ない理由は、英語でやってくれないから、なのです。キャッツも、オペラ座の怪人も、レミゼも、もちろんウエストサイドストーリーも日本語だとテンションだださがりなので絶対観たくないと思っています(ごめんなさい)。
ですが、家福は非常に変わった取り組みをしており、役者の母国語で芝居をさせます。
そして舞台の背景には英語と日本語の訳が表示される。
これの効果というのは、母国語であれば言葉の意味を身をもって知っているので、いきいきとした芝居ができ、言葉に意味がこもる、というメリットがあると思われます。
しかし!なんとオーディションには手話でしか喋れない女性まで参加していて、しかも通過し、舞台に立つことになります。驚愕でした。しかし、この手話が意外と生きてくる。
つまり、舞台である以上、映像で観る以上は、手話でも意味がわかれば問題ないし、なんなら手話だからこそエモーションが込められるという効果もありました。
この辺の面白さは実際に映像でご確認いただきたいです。
中国人女性は芝居は中国語、家福とは英語で会話をします。西島さんの英語は非常に私好みでした。カヨコアンパタースンとはえらい違いでした。(あれはわざとかもしれないが)
その他、どこ出身だか全然わからないおじさんと、韓国人と、あとは日本人…。
私はESLを思い出してこういうカオスだけど許し合うような雰囲気なつかしいなあって思って観ていました。
ただし、ESLでは英語しかしゃべってはいけないことになっていたので、もうちょっと厳しいですけど。
舞台を創り上げる体験
濱口監督は特殊な稽古をしていて、それは「本読み」というのだそうですけど、まずは棒読みで台本をひたすら読まされます。テキストの意味を引き出すんだとか…。哲学的すぎて凄いなと思いましたが。確かに最初っから芝居のせてくるとなんだかわかんなくなる気がしますが。
たとえばデザインでいきなりつくれ!と言われることはしばしばありますが、しかし例えば8時間しかなかったとしても、最初の1、2時間くらいはデザインの目的や目指すゴールの確認、似た分野のリサーチなどを行い、情報の構造を組み立てていくわけですけども、そういったことに近いのかなと思いました。つまり設計の部分ですね。
色をつける前に何をつくるかの確認をし、下地をつくる。という感じでしょうか。
油絵でいえばデッサンの段階。
名優アンソニー・ホプキンスは「すべての答えは脚本にある」として、ひたすら脚本をしっかり読み込むんだそうですね。それに近い感じでしょうか。
芝居や演劇に興味がまったくないとなんのことやらってなりそうな主題ですが、私は割と興味あるほうなので、面白かったです。
チェーホフのテキストは自分からいろんなものを引きずり出す、みたいなこと言ってたので読んでみたいなと思いました。
言葉の力というのは凄いですよね。
そして本筋のテーマはまったく違うところにあるのだが、見事に最後溶け合っていく。
個人的にお気に入りの登場人物はプロドライバーのみさきさんですね。
強い女性ですが、望んでそうなったわけでもなく、すごいヤンキーでもなく、態度が激烈に悪いわけでもなく、体格が良いわけでもありません。
しかし、運転しか自分にはスキルがないことを自覚している彼女は、徹底して運転に専念します。
ものすごいクールでストイックで、かっこいいなと思いました。
まったく本筋に関係なさそうな彼女ですが、やはり、後半で大きく主人公に影響を与えることになります。
長いので、色々最初散りばめられるし、時系列も割と飛ぶので「???」となりますが、大体見事に収束します。
カンヌ脚本賞ってのはわかる気がしますね。
あとずーっと観てる間、「こんな車見たことないんだけどこれ何!??」って思ってたんですが、調べたら、スウェーデンのサーブ 900、生産終了してから30年、とあってたまげました。なんという偏屈だ。
しかしこういうこだわりも映画だからこそか…。
今やマイカーも田舎でしか見られない時代となりつつありますけども。車という大道具(?)が果たす役割も、なんだかわかる気がしました。
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