予告編やビジュアルからして実に奇妙な映画です。
なぜ、羊が二本足で歩いているのだろうか……
いや、羊なのか?
この子は何者なの?悪魔の使い?それとも天使?
これが、映画を観ている間ずっとつきまといます。
「アダ」まるで、桃太郎のような存在。
子供が欲しいけどいない夫婦に突然手に入った、子供のようななにか。
桃太郎は幸せな話ですが、この夫婦が、アダを通して本気で築きあげた家族、それ自体は確かにとても幸せそうなのですが、どこか疑問を抱かざるをえません。
川上から流れてきた桃に入った子供の親は、彼らではないからです。
つまり、アダが、羊であろうが人間であろうが、この夫婦の子供ではないことは確かなのです。
その証拠に、少ししつこいエピソードも盛り込まれています。そして第三の目撃者もいます。
もしこれが、羊の話ではなくすべて人間の話であったら、人権がからむので大変なことになっていたでしょう。そう、この話はファンタジーなのです。
ファンタジーなのに、どうにもうまくいきません。そこがすごくリアル。
私の目から見てもアダはシュールだし、かわいいと言っていいのかわかりません。草を出せば食むのに、食卓にも座るし、人間の言葉を理解して行動する。しゃべれないのに息は荒い。どんなに子供が欲しかったとしても、「これではない」という違和感が満載です。
この、「かわいいと言い切れない違和感」がリアルなんですよね。
このまま育ってしまっても、人間社会には溶け込めない。アイスランドの、ド田舎の、羊飼いのお手伝いとして生きていくのだろうか。
私は映画を観ていて実に恐ろしいのは人間のほうだと思いました。
アダはどこか不気味です。というか、私ならこの子を子供にはしないと思います。だって自分の子供でないことは確かだし、誰かから預かってくれとも言われていないから。
それを、「人間っぽいから」と勝手に人間として育て始める「マリア」が怖いなと思いました。
旦那は、悲しそうにすることもあるけれど、奥さんが子供を欲しがっていることはよく知っているので、家族ごっこに本気で乗っかってくれます。優しい人なのです。
マリアはとてつも無く怖い女性です。映画を観ればわかります。
彼女の「なにがなんでも自分が欲しかった幸せを守る」「そのためならなんでもする」という静かな意志が、かなり怖い。
正直に言いましょう。これは母親のエゴの話だと思いますよ。
こないだツイッターで、「子供は親のエゴで生まれてくる。だから親は責任をとらないといけない」と言っていた人がいて、本当にそうだなと思います。
どうしても子供がほしくて不妊治療にお金をかけ、不安で周囲に当たり散らし、医者にも不満をもらし、やっと授かって生まれたらそれはそれで旦那が協力的じゃないと周りに愚痴を垂れる。育児がこんなに大変だと思わなかったと言われた時は唖然としました。
その逆もしかりで、つきあってる女性が妊娠しても「おろしてくれ」と普通に頼んでいる男性のLINEのスクショも出回りましたよね。
人間って結局客観的に見るとエゴイストなんですよ。
この映画の実にうまい設定が、他人の子供ではなく、家畜の子供だから奪い取っていいと思っているところなんですよね。
NOPEっぽさありました。
動物の赤ちゃんなら奪い取ってもいいのか???
その結末は最後にわかります。
やはり人間は傲慢だと言わざるをえない内容でした。
もうちょっと設定を掘り下げてくれてもよかったと思うけど、それをあえて語らない、北欧神話のような、ポエムのようにシンプルな映画でした。
ロバート・エガースの「ウイッチ」と雰囲気がよく似ています。
また、映像も綺麗でした。
アイスランドの自然の表現は、黒ではなく白で表現されます。
ザ・バットマンでは暗闇の中からバットマンが現れていたので、黒が引き締まるドルビーシネマは最高の視聴環境でしたが
LAMBは白から始まります。
霧の中から何かが現れるという表現が多いです。白、意外と表現が難しいなと感じました。私が観たスクリーンは残念ながらハズレだと思いました。白に色収差がかかってわっかのグラデーションができてしまっていたのです。
でもLAMBは小さい作品だと思われているのか、あまり、視聴環境に力をいれていなかったようです。残念です。まあ、福岡だと流行らない内容だと思いますが、人は結構入っていました。
また、NOPEに比べるとものすごく静かな映画で、ちょっと退屈に感じるかもしれません。NOPEは前半退屈だという人が多いですが、2回目はもう内容を知っているので最初からディテールを拾うのに忙しかったです。
NOPEはトリッキーなアクションホラー映画で、LAMBは静かで詩的で、北欧神話のような、やるせないホラー映画だと思います。
北欧って、ミッドサマーもそうだけど、「綺麗なのにどこか怖い」あの雰囲気は最高ですよね。
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