2023年9月3日日曜日

アステロイド・シティ / ウェス・アンダーソンの世界

恥ずかしながらウェス・アンダーソンを知らなかったのですが、この映画のチラシを見かけてから絶対観ようと思っていました。

映画観終わってすぐパンフ買いました。ビジュアルがとにかく素晴らしかったので、何かしら手元においておきたいという気持ちからです。(バービーも、ウェス・アンダーソンを参考にしているので、ビジュアルがよくてパンフ買いました)

ウェス・アンダーソンのその「ビジュアルのよさ」というのはどういうものなのか、デザイナー目線でお伝えします。

 1:やはり色彩が良い

インスタグラムのフィルター(ナッシュビル)のようなカラーリングですが、ある程度いじっているとは思いますが、明らかに計算された色使いでつくってるなと思いました。

その色とは、背景・マットペインティング・小道具・大道具・衣装・髪の色・肌の色・照明にいたるまで、細かいこだわりがあると感じます。 

簡単にいうとレトロカラーです。1955をあらわしているからとも言えますが、完璧すぎて驚きます。

ちょっと度肝抜かれたのは「グリーンのバスタブ」です。どうしたらそういう発想になるのか。そしてバスタブやっぱり塗ったんですかね…。

あと人間の肌はあえて彩度をがっつり上げて色飽和を起こすように補正されていますが、レトロ感がよくて効果的でした。

積まれた中古車もなんとなく色が綺麗ですし、家族の持ってきたトランクの色も計算されているし、トム・ハンクスの衣装の上がクリーム色で下が水色のパンツはすっごいかわいいのにおっさんになぜかしっくりきていてとにかく凄いなって思いました。

2:フォントが良い

まずタイトルとスタッフロールのフォントはすべて統一されており、かわいらしいフォントです。

また、小道具や看板が大量に出てきますが、すべて計算しつくされていると感じました。しかも、看板で状況を説明しまくっている映画なのですが、状況が変わると上から赤いシートを貼って文字が書き直してあるのですがそこも綺麗にフォントでデザインされています。そしてタイポグラフィーにこだわりのある方はご存知だと思いますが

「字間」が完璧なんですよね。

どういう感じかというと、「あえて詰めない」「少し空ける」なのですが、1文字分あけるとちょっと開けすぎなので50~80%くらいで留めてるのが「かわいらしい」「レトロ」なんですよ。あとあのフォントの選定センスは異常ですね。現実には存在しないくらい、計算しつくされています。画面全部がデザインされている。

自動販売機のセンスが良すぎるので、こういうの日本にあってもいいと思うけど、おそらく人間が生きているうちは設置されないでしょうね。

ウェス・アンダーソンこそ映画グッズを大量に出しても売れると思いますね。

3:構図が凄い

これは多くの方も同じ意見だと思います。こだわりが強すぎて、つまらないシーンでも画面の隅々までディテールが楽しめました。

例えば、人物を正方形の窓から撮影しているシーンが結構あるのですが、白い壁の真ん中の人物に集中させておきながら、その壁の先の背景までが完璧にレイアウトされています。簡単に言うと、「絶対ものが被らないように配置されている」のです!!もし被っている場合は、完璧なレイアウトで綺麗にものが並んでいます。

ぐちゃぐちゃになったのは少年が飛び降りた時に空き缶が飛び散った時くらいなのですが、この少年が上から下まで白を着ているんだけど、なぜか白いニットとかなんですよね!異常なこだわりを感じました!

一点透視が好きなのか、いちいち一点透視になるところまでカメラを移動させて、シーンを撮影、わざわざ移動してまた一点透視で別のシーンを映す…。演劇がモチーフだからというのはわかりますがピタッと中心に合わせるので、絶対俳優の位置を変えることはできないと思うんですよ。消失点に向かって背景が左右対称ですからね。こいつはたまげました。

一か所、「上下」に撮影しているシーンがあり、これも完全に中心を合わせた三点透視でした…。

また、絵画的な構図が多く、人物はあまり動かないものの、「手前に中心人物」「横にサブの人物」を配置していることが多く、不自然な位置にいるのですが絵としては完璧なんですよね。動くイラストを見ているような感じです。

非現実感を出すには効果的だし、中心に絶対に合わせるという構図ならある意味迷いがないので楽そうではあるのかなと思いました。(カメラの技術を知らんのでぴったり合わせるのがどれだけ大変かはわかりませんがw)

あとスクリーンの左右ギリギリに人物配置して会話させるの、結構好きですね。おもしろい。

真ん中を柱でぶった切るのも面白いなと思いました。

4:アナログへのこだわり

全体的にアナログなのがかわいらしい作品なのですが、宇宙人のアナログ感がすごくて、かわいくてしょうがなかったです。ストップモーションアニメーションなのですが、コマ撮りらしいぎこちなさがたまらないですね。

説明するともったいないので、ぜひ見ていただきたいです。

また、パンフに書いてあったのですがこれ全部フィルム撮影だそうで。

いや、わかる。同じ極彩色の世界でも、バービーは生々しい写真感があったけど、アステロイドシティは徹底的にレトロ感にこだわっていますからね。色あせた、優しい色づかいや少し不鮮明な輪郭(とはいえピントはばっちりなんだが)はフィルムの味なのかもしれないなあ。

 

ビジュアルばかり褒めてしまいましたが本当にビジュアルへのこだわりはハンパないです。普段デザインをしている人間からしたら「すごいうまいデザイナーが突然現れた!」みたいな世界ですよ。

「こだわってつくれ!」「完璧主義になれ!」と尻を叩かれるような完成度の高さです。

その反面、話はあんまりおもしろいとは言えないのですが、なんかいちいち小ネタが笑えるので楽しかったです。きっと面白い監督なんだろうなと思いました。宇宙人の登場シーンはみんなやっぱりちょっと笑っちゃいますよね。 

テーマは演劇やクリエイティブの話だと思っていて、ちょっとドライブ・マイ・カーを思い出しました。

あまりにも完成度の高いオシャレ映画なので、ずーっとカフェとかで流しておくのによさそう。家で流しっぱなしにしたいような映画。

 

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