2025年3月3日月曜日

謎すぎるハイテンション映画「ANORA アノーラ」

アカデミー賞発表は結構楽しみなのですが、幸い「ANORA」は見れると言うことであらすじを読んでなんとなく女性向けかと思い観てきました。

ですがこちら男性が観てもなかなか驚きのクレイジー映画ではないかと思います。

少しネタバレするかもしれないので、これから見る人は控えていただければと思います。あと気を付けるべきはR18なので特に序盤は最初からエロ・セックスシーンが多いです。グロはありません。


題材は至って普通の筋書きと思えました。

娼婦がロシア語を話せると言うだけでロシアの大富豪のおぼっちゃまに気に入られ、弾丸的に結婚します。ですが、展開に無理はなく、一週間も有料で娼婦を束縛した結果、気に入ったから結婚する!と言う感じで、女性のアノーラことアニーも最初は疑っていましたが、本気だと言うので、承諾したという感じです。しかもイヴァンは確かにスポイルはされていますが、女性に手をあげたり怒り散らしたりする性格ではありません。変な性的嗜好もありません。みんな楽しければいいという現代的なゆるキャラです。

アニーは決して頭がパーな娼婦ではありません。非常に魅力的なキャラクターです。

絶世の美女ではありませんが、魅力的なボディと、ハキハキした可愛らしい美声、そしてコミュニケーション能力で仕事をこなしてきました。私に言わせればどんな業界でも通用すると思います。そして、頭がいい。雇い主に社会保険がないなら辞めると言う交渉まで持ちかけていました。(つか社会保険ないんですねこういう業界・・)

ですが結婚はイヴァンの独断であり、両親が嗅ぎつけた途端に3人のロシア人がイヴァンのところに押しかけ、離婚するように言ってきます。

筋書きは本当に普通なんですが、ここからがものすごいハイテンションで強烈なコントを見ているようでした。笑わずに終わる観客はあまりいないと思います。

ANORAの特徴は、すべてのキャラクターが思いの丈をぶちまけ、全員何かしら主張してくるのですっごいうるさいところです。普通の脚本だったら3人が同時に喋る時はなんか工夫があると思いますがこの映画は同時に3人がハイテンションに捲し立てます。例えばロシア人2人が口論をしていると、アニーが「Excuse me! Sir!!!!」って強引に割って入ろうとします。

離婚裁判もひどかったです。弁護士は「何が起きているかわからないが、知りたくもない」と言うほどカオスな状態で、普通離婚裁判というのは当事者が主張して離婚するのに、なぜかトロスと言うおっさんがめちゃくちゃ割り込んできて、警備員に腕で制止される始末。とにかくどいつもこいつも主張が激しいw

キャラクターの解説をするともっとわかりやすいと思うのでざっくり思ったところを書きます。

アニー

激しい度★★★★★

離婚しろと言われ、イヴァンが脱走すると豹変し、2人の大きいロシア人男性相手にものすごい派手に暴れ回り、最終的に絶叫するのでさるぐつわをかまされる始末です。どっからそのエネルギー来るんだよっていう。

ANORAの見せ場の一つですね(苦笑

トロス

激しい度★★★★
しつこい度★★★★★

イヴァンの親の命令を受けてイヴァンの保護観察をしているボス。

一見紳士的だがめちゃくちゃしつこくて強引なのが特徴。激しくはないと思いきや、車がレッカーされるとわかると突然何もかもぶっ壊して逃走。結構ヤバい。

真剣にうざい上に、合法な結婚を違法だと言い切るのでやはりヤバい。あと老害。

イヴァン

激しい度★★★

最初は激しい抵抗を見せたものの、途中から酒に逃げる。非常に弱い。

弱いんだけど、私にはわかるんだよ。彼は自立したいんだよね。根は悪い子じゃないし、本当に結婚して自由になりたかったんだと思う。仕事してないから資金が尽きると思うけど。

イヴァンの母

激しい度★★★

とにかく性格が悪い。多分、この人のせいでイヴァンは自立できてない。

イヴァンの父

激しい度★★

顔だけ怖い。自分の妻が愚弄されているとき爆笑していてメンタルがマジでやばかった。イヴァンを助けろよ・・・

ガルニク

激しい度★★
愚痴っぽい度★★★★★

すごい愚痴っぽくマイペースなトロスの部下。絶妙な倦怠感を場に漂わせる。

イゴール

激しい度★★★
クール度★★★★★

唯一?まともなトロスの部下。だが仕事と割り切っているのか、命令されればいとも簡単に激しく器物破損する。アニーにはかなり手加減していたんだな。フードを目深に被っていると正直怖い。

一度だけアニーを庇う発言をしたのはすごい勇敢だなと思った。

あと多分映画見てる女性全員彼に惚れる。笑


他のキャラクターもなかなか主張が強いのですが・・・

これは私が出した結論ですが、モブキャラにも結構セリフを与えているところから思うこと。

つまり「どんな人間にもバックグラウンドがあり、それぞれの意見・信条がある」と言うテーマが隠れているのではないかと。

現代の問題点として「人の気持ちがわからない人間が増えている」と言うのが多かれ少なかれあると思います。

私はそういう人間の治療に映画は使えると思うんですよね。小説でもいいんですけど、「今このキャラクターが何を考えているか想像しなさい」と言うやつです。

例えばこの映画を観て、「イヴァンはどうしようもないドラ息子だ」と結論づけるのってかなり浅はかだと思うんですよ。

イヴァンの視点から見たら、「結婚して自立したい」「親と話して説得して、親の支配から逃れたい」と言う主張が絶対にあったと思います。親にべったりだったら、「親の話はしたくない」なんて言わないと思うので。これはですね、実はきつい話なのですが、「ボーは恐れている」状態なんですよ。イヴァンは、母親の束縛から逃れられないのです!ボーの母親と全く同じセリフを言われていましたからね。私は胸が締め付けられました。最後にイヴァンがサングラスをかけるのは、理想と向き合うことを諦めたからだと解釈しています。

また、アニーに関しても「娼婦が夢見て騙されただけだろ?娼婦なんかやってるからだ」と結論づけるのであればそれもちゃんと映画を消化できてないと言えます。

アニーは結構用心深い女性です。そもそもイヴァンも、ちゃんとお金は払ってくれていました。好きか嫌いかで言えば、普通にイヴァンのことが好きになったんだろうし、イヴァンも普通にアニーに惚れていたと思うのです。普通の恋愛をしただけなんですよね。だけど、相手がちょっと悪かった。

騙されたのではなく、あの毒親の権威に勝てなかったのが一番の敗因だと思います。

裁判では彼女の主張の方が正しかった。彼らは合法的に結婚していたし、イヴァンもその書類で勝てると最初は思っていましたからね。

例えばライバル娼婦のダイアモンドですら、私は真っ当なことを言っていると感じました。彼女は嫉妬で絶対うまくいかないと予言していて、的中したら大喜びでしたが、彼女は先見の明があったわけです。あまり嫌いになれませんでした。やっときたチャンスを掴もうという気持ちもわからんではないのです。それに、HQでの大騒動のとき、娼婦たちが面白がって列を作って見物しにきたのも、コメディではありますが、本質をついているなと。

アニーはあくまでもあの子達の一人でしかなかったんだと、娼婦はみんな本当は解放されたいと思ってるんだなと、改めて再確認するわけです。

トロスの主張は色々あるものの一番笑えたのは「お前らの世代は大嫌いだ!インスタ、TikTok、インスタ、TikTokばかりじゃないか!

老害発言なんだけど、これも的を射てるので一概に「間違っている」と言い切れないのが、うまい!

ガルニクの主張は、やはり飛行機のシーンじゃないですかね。

ここぞとばかりに「お会いできて光栄です・・」とゴマスリを始めますが、私、これ本音だと思うんですよ。

ロシア人がアメリカで生活していくのってそれなりに大変じゃないかなと思うので。高給とりだと思うし、本当にありがたいと思ってると思います。

でもイヴァンを保護観察するのはすごく大変らしく「こんな目に遭うために契約したんじゃない・・」と愚痴りまくっていました。でもやっぱり、それなりのお金はもらっていたんでしょうね。

最後にイゴールの主張です。彼はずっとアニーのことを心配していて、ちょっと気持ち悪いくらい気にかけていましたが、まあ、ちゃんとした優しさでした。アニーが警戒するほどの下心は持ち合わせていない本物の紳士。

イゴールは多分仕事だと割り切っていると思いますが、そんな彼でもやはり一度だけアニーをきちんと弁護していました。多分、彼は時が来たら辞めるんだろうなあ、と思います。

トロスは老害だしウザすぎです・・・


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