2026年3月20日金曜日

ウィキッド 永遠の約束「無限と有限の間に」

ウィキッド ふたりの魔女(パート1)で、エルファバは「私の未来は無限」「私たちは無限」と繰り返す。その無限は「Unlimited」という単語で繰り返し表現され、タイトルではないが、劇中に何度も同じ音で歌われていた。シンシア・エリヴォの低い声が温かに響く単語で、良い歌である。

しかしパート2ではまるで対比のようにエルファバは自分の能力を「有限」だと歌う。「Unlimited」「I'm limited」に変わってしまった。音節が同じため、全く歌が損なわれないのも皮肉である。

無限には「inifinity」とかもあるけど、unlimitedとしておけば、対義語がlimitedになるため、わかりやすいからそうしたのかもしれない。

私はこの歌を最初に聞いたとき、時透無一郎の無は「無限の無である」という概念を思い出していた。

エルファバの未来は無限で、彼女のポテンシャルも能力も無限の力があった。魔力は終わりが見えないほど、優秀だった。エルファバは無限の可能性を夢見てエメラルドシティへ赴き、魔術書「グリムリー」に出会い、即座に能力を開花させる。「Defying Gravity」とは「重力に逆らう」という意味で、彼女はそれを歌いながら空を自由に飛び回る。

エルファバは無限の可能性と未来と能力を持ち、自由な女性としてエメラルドシティから飛び立った。

素晴らしいエンディングのようでありながら、その黒い服装と緑色の肌は、不吉な未来も暗示していた。

しかし私は、まだこの物語に期待していた。その外見から差別されていた女性が、正しく能力を認められて、活躍する日が来るのではないかと。

「オズの魔法使い」を初めて見たのは10歳くらいの時だったと思う。まだ配信サービスなどなく、親が買ってきた英語だけのビデオを見ても、オズが如何にダメな男かがよくわかるようになっていた。なんとも大人が汚い、セコい生き物なのかもよくわかってしまう、少し残酷で現実的な世界観がそこにある。

ウィキッドも舞台は同じなので、基本的には現実が如何に残酷であるかを突きつけてくると同時に、観客にもそれは跳ね返ってくる。

実力以上の地位に縋っていないか?

実力以上に自分をよく見せようとしていないか?

エルファバはおそらく登場人物の中では一番エゴが少なく、まともな判断を下せる人間だ。

そこでエルファバは諦める。自分には世界を変えられない。いや、もし変えるなら、自分が悪い人間として淘汰され、グリンダに「良き人」を演じてもらおうと、エルファバは決断した。賢い、エゴのない決断である。

そこで歌われるのが「私は有限だ」という歌である。

では無限の力、無限の可能性とはなんだったのか?

厳密に定義しよう。おそらく「力」というのは有限である。無一郎が敗北したのと同じだ。能力というのは限界があると私は思っているし、そもそも人間には寿命がある。

しかし「可能性」は無限である。これは科学的に限界を定義しようとしても難しいからである。例えば、ノーラン監督の映画みたいに物理的に時間を逆行するとか、五次元で生きた人間が意志を持ち続けるのはおそらく不可能だと思うが、エルファバの置かれている世界では魔力の「可能性」に限界はないだろう。

無一郎は「他者のためなら人間は無限の力を出せる」という意味を込められた名前であり、

エルファバの無限の能力は、実はグリンダの協力があれば、良い方向に使われ、国をおさめられたかもしれない。

私は結婚したことがないからわからないけど、多くの作品に繰り返し語られる物語がある。それは人間は、自分の欠陥を補うパートナーが与えられるという神話である。

エルファバのパートナーはフィエロではない。

おそらくグリンダだったのだろう。

同性がだめとか、そういう話ではない。信念が違っていたから、二人は協力して生きることができなかった。

その証拠に、パート1でもパート2でも、エルファバは何度も「私たちは、一緒であれば無限」「勝てない敵などいない」と歌っていて、グリンダは否定していない。

無一郎が敗北した理由の一つに、最初に黒死牟に出会ったとき「一人だったから」という考察を多く見かけたのも、同じような理由ではないかと思った。

エルファバが自分の可能性を初めて「無限」と自覚して喜ぶ時、いささか傲慢さを禁じ得なかったのは、私だけではあるまい。

人間は協力して生きていきなさい。協力すれば、無限の力が得られる。

そういう意味合いが込められている作品なのかもしれない。


それにしても、エルファバだけがいつも割を食うのは何故なんだろうな。私は、フィエロなんか手に入れたところでどうかな、と思ってしまうのであった。恋愛を描くにしても恐ろしく中途半端である。

モヤモヤする割には、問題作と言えるほどの深みも感じていない。原作をちゃんと読んだほうがいいのかもしれないが、ビンタ合戦にあまり感動しなかったので笑、あんまり深く関わりたくない気もする。

ミュージカルというのは概して話が適当なパターンも見かけるけど、そういう作品なのかもしれない。

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