この映画はサムネイルで少し損をしている。
見た目がチープなSF映画に見えなくも無いからだ。もうちょっとストイックさをビジュアルに出せれば良いのだが(もしかしたら宇宙人を出した方が良かったのかもしれない)。構図が安っぽい問題がある。
内容は非常に真面目で良質なSFだった。
インターステラーなどと似ている。時間を操るシナリオだ。厳密にいうと操るのではなく、俯瞰するといった方が正しいだろうか。
私は物理学は全然できないのだけど、クリストファーノーランのおかげもあって、また宇宙や天文学が好きだった幼少期もあってなんとなくこのような抽象的なSF事象を理解できる。
感覚的にだ。
この「なんとなく感覚的にわかる」のがこの映画では特に大事になるのでは無いだろうか。
インターステラーの終盤で、主人公が過去に容易にアクセスできる場面がある。5次元、だっただろうか。
私たちは立体的に言えば3次元で、時間軸を含めると4次元に生きていると言えると思う。4次元で時間軸のある我々は、「肉体が存在し、心臓が動いている間」は現実空間に生きていられる。そこから見た「二次元」には時間軸が存在しない。あたかも存在するかのように、描かれてはいるが、画像である。
また一次元なるものも存在するが、仮にこれが文字だとして、それらも体感するのに時間は消費するが、一次元自体に時間軸は存在しないと言えるだろう。(時間そのものだけを捉えれば一次元とも言えるが)
という、ざっくりな仮定のもとで話を進めると。
5次元に存在する生物(知覚者)は、4次元を時間軸もろとも俯瞰することができるのでは?とインターステラーは言いたいのかなと私は思った。
さて、この「メッセージ」では地球に降り立った宇宙人の言語が難解で、主人公の女性はあらゆる手段でこれを解読していく。見た目的にはAdobe Illustratorで書いた適当なインクの輪に見える。なぜベクトルデータで説明しているかというと、彼女が分析する時に、アンカーポイントが多数見えたからだ。それに伝達手段に使える記号であるならば、確かにベクトルデータに変換できるはずである。
この宇宙人は、どうも未来が見えるらしいのだが、見えるというか知覚しているという感じらしい。そして、私の解釈では、宇宙人が主人公に与えた「武器」は未来を見る能力である。彼女は何度も謎のフラッシュバックを見て、それがだんだん頻繁になってくる。未来の自分の子供を見ているのだ。
この「だんだんわかってくる」感覚を表現するのが、ドゥニ・ヴィルヌーヴは非常にうまいと思った。DUNEもそうだけど、無理のないように話を丁寧に進めるのがうまい。(DUNE2は少し終盤は詰め込みを感じたが)
映画は物理学を学ぶためのものではない。
この感覚的に宇宙人を理解していく感じ、を映像を通して体験できるのが映画の素晴らしいところだ。
E.T .と出会い、最初は怖いなと思い、だんだん仲良くなっていって、最後はお別れする時に号泣する、そういう感覚を共有できるのが映画の良いところである。
人の考察も見てみたのだが、「未来がわかっているのになぜその通りにする」かなんてことは私はどうでも良いと思った。
この映画で感動的なのは、未来からの「メッセージ」を彼女が受け取って、必死で実行する(これがクライマックス)ところで、そこで彼女は地球の平和を守り抜くのである。
宇宙人がきたことで、地球の住民は混乱する。戦争が目前に迫りつつあった。
言語学者のルイーズは、焦る人類を前に「丁寧にメッセージを解読したい」と言い続ける。
ここにこの映画の素晴らしいテーマがある。未来などぶっちゃけSF設定としては良いのだが、大事ではない。ここで大事なのは、「相手の言っていることを理解しようとする姿勢」である。そしてその姿勢が地球を破滅から救ったのだ。
多くのSF映画は盛り上げるためにここで戦争を始めてしまうかもしれない。
だから、私はあの中国軍の代表が「ありがとう」と言い始めた時震えるほどに感動したのだ。
そして、ルイーズが辛抱強く解読を続け、リスクを冒して中国軍の上将に電話をかけ、未来がどんなものであろうとも、突き進む一連の流れがとても美しいと思った。学問と科学が平和を導いたのである。そして、ルイーズの良心が。宇宙人もそれを見越して彼女に能力を与えたのではないかと思う。
SFは暗く恐ろしい破滅の物語も多いが、「メッセージ」は前向きでありながら、未来を知ってしまう切なさも含んでいる良質的なSFである。
そして、最後のあたりのシーンは、それを慰めるものではない。彼女は、「今を」生きることをそれでもなお楽しむのである。「今、ここにある温もり」を大事にしようと、伝えているのである。
また、ドゥニ・ヴィルヌーヴといえばビジュアルの美しさだが、宇宙人のデザイン、乗っている乗り物のデザイン、「記号(文字)」のデザインなどどれもスタイリッシュで美しかった。彼は「霧やもや」を使うのが非常に上手いと思っている。絵作りが上手いというか。
ところで原題は「ARRIVAL(来訪)」であるが、邦題「メッセージ」も悪くはない。なぜなら映画全体がメッセージの役割も果たしているし、ルイーズはずっとメッセージを解読しているからだ。
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