結構面白い映画だと思う。予告編をツイッターで見て、恐ろしい内容だと思ったが、大変興味を持った。それがアマプラにいつの間にか追加されていた。
あらすじ、設定は非常にシンプルでわかりやすい。
主人公は、とある条件(認定書をもらう目的)で「プラットフォーム」の中に入る。
そこでは、簡易なベッドと明かり取り程度の窓、そして洗面台が用意されている。同室にはもうひとりだけ人間がいる。
部屋の真ん中が空いていて、そこにテーブルの台だけみたいなものが降りてくる。
そこには、「人が食べたあとの食べ残し」が乗っている。
下層にいけばいくほど、食べ物が減っていくという仕組みだ。
最下層にたどりつくと、このテーブルの台は超高速で上に戻っていく。
一か月経つと、別の階に移される。自動的に寝ている間に。
ストーリーは48階から始まる。
注意点としては、食べ物を食べるカトラリーがないため、手づかみで食べなければならないこと、そのため非常に汚いビジュアルになる。
主人公は最初食べること自体を嫌がった。
だが、もちろんそれだけでは済まされない。
上からいろんなものが降りてくる。あるときは自殺者?か他殺かなにかの人の遺体、ある時は「ミハル」といって息子を探している女。食べ物は下層に近づくにつれて、減っていくので、 本当に飢えた人間は同室者を殺して食べたりするのだ。
この「ミハル」が実にキーパーソンだった。
最後の最後までちゃんと見ると、それがわかるようになっている。
さてこの映画、何が素晴らしいかって、最初から中の人が、良心を試されているからだ。
この映画はスペインでつくられており、全編スペイン語だ。
スペイン人は敬虔なキリスト教徒が多い。
キリスト教徒でなくとも、当然こう思うだろう、
「下の階の人たちのために、食べ物を残してあげよう」と。実際、元管理者が言うには、自分の分だけをとれば全員に食事がいきわたるというのだ。
ここがミソだ。
最初から、主人公は「残そう」という。
だが、金銭でも、性欲でもなく、「食欲」の飢餓に、人はいつまで耐えられるものだろうか。
主人公は途中で、同室の女性に自殺されてしまう。
そして飢餓の誘惑と戦う。
人を食べていいものか。いや、いいわけがない。でもそこに死体がいるのだ。
私がこの作品がいいなと思ったのは、完全に安部公房的なシュールレアリスム、芸術性の高いセリフと見せ方を貫いた純粋なSF作品であること。多くを語らず、視聴者に解釈や想像の余地を残すこと。そして同じ舞台なのに非常にテンポがよく、伏線もばっちりだ。
そしてテーマはあくまで人間の良心に迫ることであること。
この映画で、人は試されている。
主人公を食おうとした同室者も、死体を食べようとした主人公も。そこには「善悪」の概念よりも、視聴者に直接問いかけるちからがあった。
「あなたなら食べますか?」
という問いだ。
残酷映画でも、スリラーでもない。ベースはキリスト教の概念だ。究極の状態で他人に与えることができるだろうか?という、試練である。キリストになれるか?お前の中の、神はどのくらい強いのか。
強烈な階層社会を、まるでそのまんまビジュアル化したような映画だし、ビジュアルも気持ち悪いシーンが多い。だが、主人公は人を食べることは基本的にしなかった。
これが、主人公があっさり誘惑に負けて人を食べてしまったら、ただの猟奇映画なのだが、それをしないことで、様々な苦悩をすることで、映画の芸術性やメッセージ性が高まって非常にいい作品になっていると、私は思う。
人を食べる作品というのはいくつかある。ハンニバルは娯楽のために人を食べるので私はあまり好きではない。東京グールも好きではない。鬼滅も基本的には嫌いで、最初は見る気すら起きなかった。
本作は「人を食べる」ということを、ネタにし、センセーショナルな客寄せの道具に使っているような作品とは一線を画している。食べてはいけない、というのではない。食べないのが尊いということでもない。
なぜ、食べてはいけないと感じるのか、を考えさせられる。いい作品だと思う。
宗教は本来、人があがめ信じたもののために、プライドを持って、善人であり続けるために存在する。
日本には宗教がまともに定着しなかったおかげで、変なところで良心がない。例えば海外では、性的な行動を宗教で抑制している関係で、日本よりは性的な発言や軽度の性犯罪が「常識として」タブーとなっている。私は、イスラム教がちょっと苦手ではあるが(トルコ人のせいで)、イスラム教徒は「本(コーラン)に書いてあるからレイプはいけない」と女性が言えば、やめるのだそうだ。
私はそういう「信念」を評価したい。それが「人間が人間であること」のプライドだと思うから。
ちなみに終盤からエンディングの展開はなかなかすごい。特にラストシーンは美しいと思った。娯楽作品ではないが、非常に完成度の高い、社会問題を織り込んだ詩をビジュアル化した芸術作品だと感じる。
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