アラン・ウェイクというゲームは謎の中毒性があった。不可解なストーリー展開と設定、謎の敵の唐突な出現、訳もわからないまま、戦うことを強いられるのにも関わらず、プレーヤーはその理由を知りたくて、ついつい目的地に奔走してしまう。
その不可解で引き込まれるストーリーについて語るとネタバレだらけになるので、まずはそれ以外のところでこのゲームの凄さ、素晴らしさを備忘録として記録しておきたい。
まずはゲームのタイトルが凄い
えっそこかよ!って言われそうだが重要な要素だ。
ゲームも、映画も、アニメや小説も、フィクションの作品はタイトルがとても大事だ。それを連呼してマーケティングしていくから。クチコミで音声で伝えられても、すぐに覚えられるような個性とわかりやすさもなければならない。
「アランウェイク」は主人公のフルネームである。
響きが非常に良い。そして短い。だが驚くべきことは、彼のファミリーネーム(姓)である。WAKEというのは、「起きる」という意味だ。このゲームではアランが何度も悪夢にうなされ、そのたびにアリスに「アラン起きて」と言われるシーンがある。
「Alan, wake up」
おそらくこのセリフにかけたというのもあるだろう。ゲームの内容にもかかわっていて、我々は常にこれが全部夢オチなのではないかと心配するのだ。
ロゴのデザインが素晴らしい。
読みやすくわかりやすく、ゲームの内容をよく表わしている。ロゴから光が差しているのは、このゲームが闇と光の戦いであることを示している。ロゴには何種類かあり、水が映っているものもあるが、これはコールドロンレイクが重要なものであることを示している。そして、Aの位置に絶妙なバランスでなんと主人公のシルエットが収まっている。しかも、ゲーム起動時にはこのシルエットが動く。アランが懐中電灯を持ってきょろきょろしている。懐中電灯を持ってさまようゲームであることが一発でわかるようになっているのだ。
また、私がデザイナーなのでさらに付け足してしまうと、モノクロバージョンのロゴもよく設計されており、カラーのロゴの雰囲気を損なわず、視認性も損なわれていない。ロゴはモノクロを意識して常にデザインされなければならないが、優秀なデザインだと思う。
ゲームデザインについて
このゲームは、それほど武器の種類がたくさんあるわけではない。このタイプのシンプルなアクションゲームだと、ラストオブアスなどを思い出すが、あれは実はゲームが進むと軽く10種類くらいはアイテムを持ち歩けるし、クラフトができる。
しかしアランはサバイバルの訓練は積んでいない。彼の職業はライターである。作家だ。走るのもものすごく遅い。銃なんて、射撃場でレジャーで撃っただけだろう。腕力がないから、ナタを振り回すわけにもいかない。
限られた物資と、闇に対抗するための「懐中電灯」。この2種類を使い分け、「アイテムのバリエーションに対しては長いかもしれないシナリオ」を飽きずにユーザーに遊ばせる工夫がなされている。これが、実に巧妙なのだ。頭のいい人が設計したんだなと思わせる。
・何かと奇想天外な出来事がおきて、アランがしょっちゅう装備を無くす
せっかく収集した銃の弾なども、ことあるごとに崖から落ちたり、捕まったり、シーンが変わって置いてきちゃったりして、丸腰で次のシーンをスタート、なんてのはザラだ。
難易度はリマスターだと3種類あるが、敵の強さが変わる程度で、手ぶらになるのは同じようだ。
つまり、物資の種類は少ないが、ためこんでも捨てられてしまうため、まずそこで難易度調整がなされている。
・武器の扱いに慣れていても、奇襲攻撃が結構多い
銃弾などをためこんでも、いきなり後ろから攻撃されたり、ドアを開けたら敵!なんてのもザラだ。つまり敵の出現が結構意地悪いタイミングでやってくる。
武器を持っていても、戦闘に慣れているつもりでも、敵の多さやタイミングで調整してくるので、どうしても簡単にはならない。奇襲はイージーでも同じだ。この難易度調整もうまい。
・ギリギリ勝てるくらいの量しか、物資がない(笑)
ノーマルで途中までプレイしていた感想としては、「これ以上は絶対無理だ。次がきたらもう勝てない」というところで章がクリアになったりするのである。
絶妙な設計だ。
ちなみに4章の途中で門が開くまで戦うか逃げ続けるシーンがあるが、私はそこでノーマルで積んだと思った。思ったけど、ここは回避スキルを磨けばギリギリいけるかもしれない。そう思わせてくれる、絶妙な難易度設定が設計されている。
が、正直言ってアランウェイクは難易度は高めだと言わざるを得ない。また頭を使うシーンも結構ある。それほど意地悪でもないので、設計者に好感は持てる。
おそらくこの「もしかしたら勝てるかもしれない感」がアランウェイクの人気に一役買っているのだろう。
バトル時のエフェクトの映像・サウンド設計が素晴らしい
これも飽きない理由のひとつかもしれない。
アランウェイクは日本では「ホラーゲーム」に分類されるらしいが、バイオハザードのようなグロさやわざとらしい怖さはない。確かに怖いのだが、あくまでも、「暗闇に対する恐怖」だと思う。
アランウェイクはサウンドデザインによって、肝試しの時のような「不安感」をうまく演出している。
炭鉱跡を歩いていると、自分以外の足音が聴こえたり。
なぜか、成人男性のいびきがかすかに聴こえたり。
物資がおいてある場所では女性の吐息が聴こえたり。
極めつけはバトルシーンである。まず闇の存在が出現する結構前から、森がざわつき始め、森の中にこぼれる月の光がせわしなく動き始める。どうやってつくるエフェクトなのか、ちょっと考えてしまったw(アナログで考えれば、光源を動かせばいいということになるが…、ループしているのだ)目の前は、涙でにじんだような景色になってきて、すごい風が吹いている感じに見える。なんの音だかわからない、風や何かの音声がごちゃまぜに襲ってくるのだが、いい具合に耳の中がいっぱいになり、精神的に追い詰めてくる。
アランウェイクのサウンドトラックのサムネイルには「A Psychological Action Thriller」とある。「心理学的な(精神的に追い詰められる)アクションスリラー」といったところだろうか。
戦いはいたって平凡な感じがするが、イージーでも楽勝だと思うことはほとんどなかった。発煙筒の光の表現、敵が光によって砕かれるエフェクトなども素晴らしく、達成感があった。バトルアクションにおけるUX設計は秀逸だと思う。
しかしアランウェイクのUX設計で最強なのは、今でも「敵が出てくる直前のあの嵐のようなエフェクト」だと思っている。あれはきっと時間をかけて作られたに違いない。何かが襲ってくる予感というのは、実際のバトルよりも怖いものだということを、よく理解した上での設計だ。
BGMも精神的に追い詰められる感がうまく表現されているので、ご興味があれば聴いてほしい。BGMに関しては、ストリングスとピアノの音が上品で映画のようである。目立ちすぎないのもよい。
物語の舞台デザインや音楽の選定のセンスの良さに脱帽
舞台は西暦どのくらいだろうか。1970年の噴火から40年経っているとか。ゲーム発売の2010年ということでいいだろうか。
だが、なぜかこの舞台「ブライトフォールズ」はレトロな雰囲気が漂う。まるで1970年代からまったく進化していないような、オールドアメリカンスタイルな建物や車を見かける。この時代が好きな人にはかなり楽しめるだろう。そもそもどう見ても子供向けのゲームではないが…。
しかもアランはなぜか、最新のPCではなく、タイプライターを使用して原稿を書くのだ。
もうろくしたおじいちゃんたちがジュークボックス(これ自体がレトロだが)でかけてくれと言った曲は、 ハリー・ニルソンの「ココナッツ」である。これは1971年のアルバムに入っている曲だ。
だが、なんだかおもしろくて、ゲームで聴いてからずっとSpotifyでことあるごとに聴いている。あの時代らしい、のんびりした楽しい曲だ。
「ナイトスプリングス」やパットのラジオなどの小ネタもいい。
ゲームの随所でTVが見られるのだが、内容は大体「ナイトスプリングス」だ。
この番組だが、明らかに「トワイライトゾーン」の真似である。内容は面白いのだが皮肉で残酷なものが多く、星新一氏の短編小説のようなものが多い。
明らかに白黒TVだし、トワイライトゾーンもかなり昔の番組だ。レトロ志向だと言わざるを得ない。
パットのラジオもそうだ。パットは大体外見は60~70代のご老人である。一見モブキャラのMCのように見えるが、すごくいい人で、悲惨な戦いを強いられるプレーヤーにとっては癒しである。
ホラーゲームでない部分は実はとても癒される舞台デザインだと思う。そもそもブライトフォールズは風光明媚な観光地である。小説家をテーマにしているだけあって、趣はたっぷりある。
ちょっと書きすぎて疲れましたが、明日以降に「ストーリー」「キャラクター」「謎」について深堀りしたいと思います。
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