2024年1月28日日曜日

哀れなるものたち

今年のアカデミー賞は日本人の快挙だと思う。

国際長編映画賞にノミネートされたのは2022年に引き続きだが、ジブリ映画のヒット(これは主にジブリというブランドが海外にも浸透していることの表れだと思う)、また視覚効果賞にゴジラ-1.0がノミネートされていることに驚きだ。

VFXはてっきり米国のものだと思っていた、アニメ大国の日本としては快挙ではないだろうか。

しかも日本の映画でスケールの大きいものを作ろうとするとどうしてもゴジラに頼りがちであり、ゴジラは米国でも映画化されているが元々日本のコンテンツである。そのコンテンツで見事アカデミー賞がとれれば、いうことないのだが…。

もちろん洋画も重要なので、私はリストにディカプリオやグレタガーウィグの名前がないことに驚きつつも、「哀れなるものたち」が高評価なところに目をつけた。独特のポスターやチラシのビジュアルで一体エマ・ストーンは今回何をやらかすのか気になっていたので、あらすじと予告だけ見て観ることにした。

18禁だし、グロいかエロいかのどちらかである。

結論からいうとセックスのシーンが非常に多く、主人公のベラは性欲が旺盛なため、劇中で10回くらいはセックスシーンがある。

と言っても、主題がセックスなわけではない。

セックスはあくまでツールであり、メッセージを伝える手段の一つである。

ベラのセックスシーンは、「女性が男性に支配されることからの解放」を示している。

ベラが冒頭で自殺をすることの理由は最初はあえて伏せてある。

最後にその理由が明かされる一連の構成が素晴らしかった。

ベラはセックスが大好きだが、本来男たちにとってそれは喜ばしいものであるに違いない。実際ダンカンは彼女の奔放なところに目をつけて、愛人のごとく彼女を旅に連れまわし、彼女に「俺に恋をするな」とまで言っていた。

なのに、自由奔放なベラに、ダンカンは夢中になってしまう。これは男性の不思議なところである。自分でも、「愛人を支配したいなどというバカな男になりたくなかった」と言いながらその通りになる。

「バービー」とはまた違った視点で、ある意味かなり「性的に」男性の本性を描ききる本作は、これもまた男性に見せるのはなかなか辛いものがある。日夜Xで激しい論争が交わされている通り、男性はわがままなのである。成人男性は力や衝動が強いので、彼らの機嫌を損ねると殺されかねない。だから我々は仕方なく成人男性を優遇しているのであり、機嫌を損ねるのを恐れて指摘することも避けていた。それを昨今の映画は生々しく描き切ってしまうのである。

今のところバービーのせいで殺人事件が起きたなどという話は聞いていないので、大丈夫だと思うが…。そもそも映画館に行ってこのジャンルを見る男性が殺人衝動を持っているとは考えにくい。そういう人は多分エクスペンダブルズとかを見ていることを祈る。(ちなみにエクスペンダブルズ ニューブラッドではステイサムが「女性に敬意を払え。」と言っていた)

話を戻すがこの映画は「コメディ」である。

私が笑ったのは、ベラがセックスに一時期興味を失い、哲学の本に夢中になっていたとき、ダンカンがそれが気に食わず、本を勧めてきたおばあちゃんを「殺す!」と言った時のことである。

まず「殺してやる!」と部屋を出ていくダンカンを、大急ぎで追うベラが、てっきり殺人を止めるのかと私は思っていたのだが、どうも違うことにすぐに気づいた。

ベラは、興味津々の笑顔を浮かべていた。これからサーカスでも見る時の目つきだ。

ベラは、殺人が行われると聞いて大興奮し、是非とも自分の目で目撃したいと思っていたのである…。

これだけでも笑えるのだが、車椅子ごと海に放り出そうとするダンカンを尻目におばあちゃんが「おほほほ」と笑っているのもとても可笑しい。当然ながら白昼堂々の殺人未遂は船員によって止められた。その間、ベラはずーっとおもしろそうにそれを見て大喜びである。

このベラの残忍さはおそらくGOD(ウイレム・デフォーのこと。確かに神っぽい)の影響である。彼女は割とウザい人に対して残忍なのだが、貧困に喘ぐ一般市民を見た時は胸が張り裂けんばかりに泣き叫んでいた。

つまりベラにとって、「彼女を縛りつけようとするウザい成人男性」は殺害対象なのだろう。

これは正直に言おう。ベラは私の普段の鬱憤を晴らしてくれる優れた代弁者なのである。

また、ベラは始終ロジカルに自分の置かれている状況をテキパキと説明し分析する。(これもおそらくGODの影響である)この時、ベラは美しいイギリス英語で話すのだがそれが彼女のきつい外見にマッチしていて素晴らしいし、意志が強そうに聴こえる。彼女は胎児の脳を移植されているので、大人がオブラートに包むこともそのイギリス英語でハキハキと言ってしまうのだ。

またこの映画の素晴らしいところは衣装や美術にもあると思う。

確かにセックスシーンは多いものの、ベラが入れ替わり立ち替わり着替えてくる衣装はどれも独特で芸術点が高い。なぜかエマの生脚を出すデザインになっているのは、おそらくエマの脚がとても綺麗だからだと思うが、これをセクハラと呼んでいいのかいまいちわからなかった。芸術的であれば、それはセクハラとは言い難いのかもしれない。あと日本の文化だと、やはり胸元をギリギリまで開ける方がエロいだろうし、アニメを見ても巨乳好きなのがわかるがエマは胸があまり無いのだ。

それから、すけべな男性にとっては非常に辛い現実になるかもしれないが、ベラが一番気持ちよさそうにしているのは女性とのセックスシーンである。


全体的に変態で気の狂った内容だし、結末が割とホラーなところすらあるが、女性を男性の性的な束縛から解放するというテーマは素晴らしかった。「バービー」の方が上品ではあるが、上品だからこそ男性はネチネチやられてる気分になるかもしれない。「哀れなるものたち」はやることが豪快なので、すっきりした気分になれるし、特にダンカンが振り回されるさまは見ていて爆笑であることは間違いない。

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