2022年12月14日水曜日

シェールの妄想小説

ある日俺は博士に紹介された。

なんでも、俺の見えない左目を治してくれるというのだ。

オーナー家族の娘さんと、俺は特に仲が良かった。彼女の紹介なので、間違ってはいないと思うのだが、いかんせんそんな簡単に治るものだろうか?と不信感を抱きながら博士とやらに会いに行った。

博士はどこかで見たことがあるような、頭髪が左右に爆発したような髪型の、いわゆるマッドサイエンティストのような風貌だった。

その彼が、興奮しながら言うには、こうだ。

「君の左目を直してあげよう」

「プイプイ(それは、痛いの?)」

「麻酔をするので痛みは感じない。寝ている間に終わるさ」

「プイプイププイ?(お金は、かかりますか?)」

「無償だ」

俺が驚いて目を丸くすると、博士はにやりとした。

「その代わり、君には実験に協力してもらいたい」 

「プイ!!」

俺はさらに驚いて、一歩後ずさるが、博士は高らかに続ける。

「君はインテリジェント・ハイブランドモデルモルカーだ。その性能をさらに引き出そうというのだ」

娘さんが心配そうに見守っている。

「君には、地球の物理法則を超えてもらう」

俺は、娘さんと目を見合わせた。物理法則?どれのことを言っているんだ。

「君は地球初、時空を超えるモルカーになる。次元のはざまを、光より速いスピードで駆け抜けてもらう。すると…」

博士の興奮はクライマックスだ。

「時間を飛び越えることができるのだ。シェール。君は史上初の、タイムマシーンになるんだよ」

決定事項のように言われて、頭がぐるぐるする。

確かに俺はハイブランドモデルモルカーだ。片目がつぶれてしまったから、売れなくなってしまったが…、インテリジェンス機能搭載なので、英才教育を受けた。実は物理と車の関係も他の一般モルカーよりは詳しく学んでいる。雨の日や雪の日に、滑らないよう。高齢者を乗せても、赤ん坊を乗せても、事故を起こさないよう、厳しく指導を受けた。

だが、さすがに時空を超えるとか、光より速く走ることは学んでいない。そもそも俺の足(タイヤ)自体は、少し頑丈で溝が深い程度で、スピードは普通だ。モルカーは、スピードの出しすぎは厳禁なのだ。

俺たち3人は、本当に危険はないのかとか、通常の道路で家族を乗せて走ることも可能なのかとか、維持費などを2時間ほど話し合った。娘さんが、お父さんを呼んでzoom会議まで行った。

 

 

そして俺は、史上初、タイムモルカーとして生まれ変わった。

見た目が無骨になった。目が赤く光っているし、機械っぽい。ちょっと怖いなと思ったのだが、お父さんは「かっこいい」と喜んでいた。両目が見えているのはありがたかった。さすが博士だ。

「さっそく、実験を行いたいと思う」

俺は満腹状態まで食事を食べさせられ、だだっ広い田舎の一本道の手前にいた。娘さんがワクワクした顔で、博士と一緒に俺に乗り込む。

「この一本道は、しばらく人が来ない。この先は工事中で通行止めだ。工事中の札の前までに、時空のはざまに入れるよう、アンプリファイアーを起動する。いいかね。何も考えずに、全速力で走り抜けてくれ」

博士の目がキラリと光った。

「きみならできる!それでは行くぞ!」

どこまで安全なのかわからなかったが、博士の改造のせいか、走り出したくてたまらなかった。俺は生まれ変わったのか。そうだ。俺は伝説のタイムモルカーになるんだ。つらい過去を乗り越えて、閉鎖的な教習所を卒業して、俺は今、時空のはざまにまで駆け出そうとしている。


俺は変われる。


そう信じて、俺は全速力で走りだした。

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