2023年3月28日火曜日

ELLEという映画

この映画は、ベネデッタと同じ監督なのですが、ベネデッタを観た後「この監督かなり独特だなあ」と思ってこちらの映画もGYAOで配信してたので観て見ました。

独特というのは、ロボコップでは一切そういう表現はないので、氷の微笑あたりからだと思うのですが…(氷の微笑はほとんど覚えていませんw)

ベネデッタ観たとき、「女性の描き方が凄いな」と思ったんですけど、何が凄いって、罪レベルの2面性ですね。

確かに女性は強い生き物ですし、嘘や芝居をすることに慣れています。そうでなければ生きていけないからです。世の中は男性中心に出来ていますが、女性に出産などのハンデがある以上どうしても仕方がないことだから。

しかし、ベネデッタは同性すら裏切り、しかも最高の信頼はそこには存在しない「キリスト」であったため、私は「信仰が強い(=推し活最高レベル)」と感じました。

 

「ELLE」の主人公ミシェルはさらにその上を行きます。

推定49歳、離婚済、企業の社長、会社の男性社員とセフレ関係、父は犯罪者で投獄中、母は若い愛人と遊び、整形(ボトックス)して無理をしている。息子は麻薬売人から卒業してハンバーガー屋で働いているが、その彼女の子供はどうみても肌の色がふたりと違っていたw

カオスです!!

しかも今作のテーマはレイプで、冒頭からミシェルがレイプされています(汗)。

この映画は若い女性より、私のように40代くらいか、30代ですでに男性に失望している方などが向いているかも。

主人公は熟女なので、レイプされてもそれほど驚かないどころか、始終冷めた反応。父が犯罪者のため、彼女は生き残りとして時々いやがらせを受けていました。なので何に対しても冷めていて皮肉をいうクセがついています。

しかしなあ、最大の問題点は、レイプ犯の正体なのですよ。

この映画にはたくさんの人間が登場し、みな複雑に絡み合っています。

クリスマスパーティーにはミシェルの母親とその恋人、お向かいのご夫妻、息子カップル、会社のセフレおじさんとその嫁、元夫とそのガールフレンド、など、無茶苦茶な組み合わせがやってきます。ちょっとメンタル強くないとやってられないですね。 

この中にレイプ犯がいるのです……。

ミシェルは映画の中盤で、再び現れたレイプ犯のマスクをついにはがします。正体は意外な人物。

そして、問題は、そのレイプ犯の目的をつとめることでした。もし彼女の身体を気に入っているのなら、熟女ミシェルとしては恋人にできないか、と思ったようで(多分かなり気に入っている)何度かけしかけますが、

最後らへんでも言われていることですが、この男性、「レイプでないと興奮しない」「レイプでないとセックスできない」らしいのです。

 

この物語は決してレイプ犯を改心させようだとか、そういう愛の物語ではありません。だからなおのこと、 バーホーベン監督の意図が気になりました。

多分、バーホーベン監督って、女性には3枚くらい上手でいて欲しいんじゃないかなと思いました。

正直ミシェルみたいに生きたいとは思わないのですが、相手が改心しないとわかった時のクールすぎる対応は、かっこよくて現実的だと思いました。

終わり方のちょっと空しいけれどかっこいい感じはベネデッタと似ていました。

そして案外、現実の犯罪ってこんな感じじゃないかな?ってちょっと思いました。自分ひとりで解決するのは本来危険ですが、警察が信頼できないという考え方はわからなくもないです。

特に性犯罪系は、警察の事情聴取でセカンドレイプされがち。 

(まあ基本的には一回はレイプされたことを警察に話すべきだと思います)


あと、レクター博士が言っていたことを思い出しました。犯罪の動機は「切望」。一番近くて、しょっちゅう見かける対象を獲物にする。

まさにその通りでしたね。 

映画の構成はなかなか巧みだったと思います。


2023年3月26日日曜日

シン・仮面ライダー観てきました

この映画は公開された週末に賛否両論の不可思議な感想が散見され、「いったいどういう映画なんだ……」とまったく見当がつかないまま観に行きました。

予告編を見た感想では、「シン・ウルトラマンよりはマシだろうな」と思ってたのですがほんとそういう感じでした。

シン・ウルトラマンのセクハラシーンが気にならない人は別の感想を抱く可能性は高いと思います。

やはりヒロインがセクハラ的な目線で撮られるというのは、昭和のおっさんの下卑た視点であり、令和的にはちょっと女性視聴者の怒りを買うと思いますし、作品全体の品性が下がると思いますね。

その点では本作は素晴らしかったと思います。

ヒロイン「ルリ子」は美しいけれど、キツすぎない。外見は超可愛くて、お姫様扱いですが、めったに笑わずテキパキした「デキる女」でありながら、時折見せる「デレ」が完璧な塩梅。

個人的に庵野作品のヒロインの中で一番ツボりました。一番いいと思います。

綾波はちょっと狙いすぎかなと思ってたし、アスカも強烈すぎるところがあるので…。

また、作品全体に漂う男女関係の清潔さもよかったなと思います。

こないだターミネーター観てて思ったんですがジェームズキャメロンに代表される当時のハリウッド映画って、世界の危機が迫ってるときにラブシーンとか入れてくるんですよね、「今ターミネーターが襲ってくれば面白いよな」とか思っちゃいますねw

主人公もよい。

主人公はちょっと(´・ω・`)なキャラクターで、「人をいとも簡単に殺す能力を持たされた」ことに始終戸惑いを見せ、戦わず解決する方法はないのか、と苦悩しています。またルリ子に言わせると「コミュ障」

最近コミュ障ヒーローが流行っているのか…??

とはいえ、喜々として人を殴り殺していたら、とてもじゃないけど平和を目指したヒーローとは言えません。

主人公の、池松さん、結構棒読みというか朴訥すぎる喋り方だったんだけど、あれはキャラに合わせた演出なんだろうか。でもわざとでなくてもあの本郷だったらあってるんですよねwペラペラしゃべれる一文字みたいなキャラだったらヒロインと恋愛関係になってしまってたかもしれません。しかしこの映画のいいところはストイックなイメージだと思います。

池松さんは芝居自体はめちゃくちゃ上手いので、セリフだけ棒にしたのかなってちょっと思いました。

他の役者さんも配役がすごくよかったです。

一番よかったのは森山未來くんですかね。彼は、昔からお気に入りの役者さんで、特に今回は清潔感や高潔感が出ていてとても美しかったです。私のイメージする森山くんのいいところが存分に生かされていたのが嬉しかった。

本郷奏多くんも昔からお気に入りなのですが、アルミンやった時あれもう悪役辞めるんかいな。ってちょっとがっかりしたのですが今回悪役に返り咲いておめでたい!悪役のほうが絶対いいとこ引き出せるタイプの役者だと思います!

あと松坂桃李くんはすぐに声でわかりました。彼がいい声で本当によかったです。

斎藤工さんと竹野内豊さんは素顔で出てくるのですぐにわかりますが、こんな脇役に使うのは贅沢かなと思いつつ、ふたりとも黒いスーツに身をつつみイケメンっぷりを発揮!

竹野内豊さんはなんであんなにスタイルがいいんだ……。びっくりしちゃったよ。

斎藤工さんに関してはやっぱりウルトラマンのほうがいいですww


テーマは「幸福とはなにか」みたいなところだと思うんですが、ヒーローは悲しみや苦しみを忘れてはいけないんだというストイックな脚本がとてもよかったです。

ただ、なんというのか、終盤になると少し緊張の糸がきれたような、冗長な感覚が少しありました。

個人的には終わり方はあんまり好きではありません。が、作品の特に前半から中盤までの描き方はエヴァンゲリオンっぽい庵野節をすごく感じましたし普通に面白かったです。

原作はYouTubeで2話までしか見てなくて、仮面ライダーに「されてしまった」理由は知っていたので少し助けにはなりましたが

庵野さん作品特有の「長くて難解な説明セリフ」が多いので、一回だとちょっと理解できなかったかもしれません。 (全部一回で理解できれば、予習は必要ないかも)

ただ、それがないと脳筋ヒーローものになりかねないので、設定自体は面白かったです。もし続編があるならAIをもっとからめて欲しいなと思いましたが、一文字の性格があんまり好きではありませんでしたwやっぱりストイックなヒーローが好きですね~。

2023年3月23日木曜日

「羊たちの沈黙」がやっぱりすごい件

GYAO!が3月末で閉鎖する。この動画サービスはひそかにオタクたちの間で人気だったと思う。ちょっとレアな映画を流してくれたり、無料でアニメを周期的に流してくれることもあった。特にマスターキートンのアニメを時々流してくれるのがとても嬉しかった。

最後の大盤振る舞いで、有名な映画をいくつか流してくれているのだが、その中に他の配信ではなかなか観れない「羊たちの沈黙」があったので、ものすごく久しぶりに観てみた。

やはり40代の私にも刺さる。それに初めて観た時からだいぶ知識が増えているので、どれだけレベルの高い作品なのかが手に取るようにわかった。アカデミー賞がどうとかいうレベルを超えている。単純に完成度が高く、展開が面白く、品格が高い。この映画が大成功した要因を自分なりに分析してみた。

配役が完璧で、俳優が優秀だった

まずはどうしても役者に注目してしまう。

アンソニー・ホプキンスとジョディ・フォスターを絡ませたのが大正解だった。実はこのふたり、目がとても似ている。目が大きく青グレーで色素が薄く、なんとなく親子に見えなくもないのだ。 

ジョディ・フォスターが大成功だったのは、なんとも頭のよさそうな、クールで生意気な雰囲気がぴったりだったのだ。彼女なら、若くてもなんとかやってくれるんじゃないかと期待してしまう。そして彼女がチラ見せする恐怖が外見とギャップがあり、絶妙なのだ。

アンソニー・ホプキンスは、実はこの後の作品も、似たような感じの役を演じるので(もともとメソッド法を否定しているタイプ)たまたまぴったりだったとも言えるのだが、彼は裁判所にまで赴いてリサーチを行ったという。

英国訛りの格調高い英語がこの役にはぴったりであった。

 

主人公のキャラクター設定が共感しやすく魅力的

クラリスは実はFBIはまだ見習いであり、研修中のシーンから始まる。研修生の割には優秀であることも示唆される。またジョディ・フォスターのたたずまいがそもそもクールで知的で自信があるけれど奢らない雰囲気を醸し出しており、優秀だけど生意気すぎない良いキャラをつくっている。

研修生であり、獄中の犯罪者にセクハラされるなど、若い女性でも感情移入しやすい内容になっている。というか、正直この時代はまだセクハラに寛容だったのか、彼女は各所で口説かれまくるのだが、そのたびにクールに受け流しており、その姿が女性陣には「あこがれ」として映る。

そして重要なのがレクター博士との関係性だ。これについては後述する。 


レクター博士のキャラクターが斬新 

カニバリズムの犯罪者で、元精神科医でなぜか人を食べる。当時は異色の存在だったと思う。また、今でこそ鬼滅の刃や東京喰種などの漫画に人を食べる表現が出てくるが、それでもレクター博士のレベルのキャラクターはなかなか出てこなかった。彼は素の状態で興奮もせずに人を殺し、人肉を食すのである。

彼はワインのつまみに人の臓物を食べる。続編では綺麗に調理して盛り付けて食べているシーンもある。

ちなみに私はまだ恐ろしくて見ていないが、彼がこうなったのには理由があり、それも映画化されている。幼い頃に人を食べさせられてしまったのだ。

レクター博士にとって「他人のトラウマ」はご褒美であり、栄養である。その理由は、自分が人を食べさせられたトラウマから来るものではないかと思う。

私も、自分と同じくらい傷ついている人はいないかとついつい探してしまうし、好きになるキャラクターは大体ひどく傷ついた人間ばかり。レクター博士の気持ちはわかる気がする。

彼は恐ろしく知性が高く、芸術を愛し、ジョークやなぞなぞが大好きで、そして言葉遣いが(基本的には)綺麗で上品である。

残虐なのには変わりがないが、それまで多かった「悪い奴はただやみくもに人を殺したり暴力を働く」イメージを覆した。知性が高くこだわりの強い悪役ほど、敵にまわして怖いものはない。 


主人公ふたりの関係性が斬新

レクター博士は、純粋で勇敢で頭のいい人間はすぐに見抜き味方とみなす。クラリスの外見は前述した通り、美しい上に頭の良さがうかがえる。レクター博士は最初こそ「安っぽい格好」「田舎から出てきたんだな」とあっというまに彼女を考察して言い当てるが、動じない彼女を気に入り、ウインクを飛ばしている(笑)。

レクター博士はおそらく最初からクラリスが好きだと思うが、問題はクラリスの心境である。女性というのはいつも言っているが複雑で賢く、本音をすぐに見せないし、罠にかかりそうでかからない。女性が罠にひっかかるときは「あえて」である。

クラリスは自分のトラウマは真剣に話すが、裏ではレクター博士の情報を聞き出すことを忘れてはいない。

クラリスがレクター博士を信頼しながらも、恋愛関係にはならないところに、作品の深みがあると思う。

レクター博士はクラリスに下品なセクハラをした男を始末する(笑)。これがレクター博士の愛情の示し方だ。この辺も女性視聴者は共感し、レクター博士に好意を抱くだろう。そして面白いのは、クラリスがそれをわかっているところだ。

「彼は私を追ってはこない。「それが無礼だ」と知っているから」

 

テンポがよくて目が離せない 

映像の編集や構成が上手い。次から次へと巧みに物語が展開し、かと思うと突然止まったりする。特にボールペンの時はしつこいくらいボールペンを映していて、映像だけでこれが重要なのだとわかるようになっている。そういう緩急がとても上手いと思う。


ミスリードによる凝った脚本

レクター博士が入れ替わっている時と、あと終盤の「犯人を突き止めた」と思った時のミスリードの表現が非常に上手い。よく見ると、レクター博士が入れ替わっているのに気づいてしまう人は多いと思うが、初見だとわかりづらいかもしれない。

見事なエンディング 

絶体絶命かと思われた終盤からのエンディングは見事で、緊張感を持たせたり限界まで引き延ばしたりするテクニックは優秀だなあと思った。最後の最後でタイトルを回収するところも見事である。

 

また、この映画がもたらした影響は大きかったのか、様々な映画で似たようなテクニックや演出を見ることができる。

この映画によりFBI捜査官が流行したのか、私は数年後に「FBI心理捜査官」というベストセラーの本を読んだ記憶がある。

 

この映画は「人の心理」についてもよく洞察がされている。トラウマに着目している点からも、我々人間がただ貧困などが原因で犯罪を犯すような単純な生き物ではないこともよく表現されていた。特に「目の前にあるものを切望する」はよく会社のハラスメントで見かける光景であり、納得のいく考察であった。

本来であれば犯罪者本人を掘り下げるところを、あえてレクター博士という難解な人物にスポットを当てることによって、大変深みを増す作品となった。確かにはらわたを切り裂いて飾るとか、警官を襲って好きなだけ殴るとか、そういうシーンもあるが、残酷なシーンは綺麗に編集して一番グロいところはあまり見せていないし、品格を感じる。

知的好奇心を刺激されるレクター博士のセリフに皆が翻弄される知的スリラーであり、終盤はホラー映画としても楽しめる。

 

また、ザ・バットマンは明らかに影響されている感があって、獄中にいる賢い犯罪者に意見を求めにいく「カットされたシーン」なんかはとても似ているなあと思った。

2023年3月21日火曜日

フェイブルマンズ、観てきたんですけどね

いや、びっくりするほどつまらなくてびっくりしました、ほんと

エブエブ見た後だとベーグルは二番煎じだし、「Walk On By」はNOPEと同じだし、何もかもがふわっと大したことないな~と思ってしまう内容。

主人公「サム」はおそらくスピルバーグ本人だと思うんだけど、裕福な家に生まれ育ち、父が天才的なエンジニアで謙虚で真面目で妻が浮気がちでもまったく怒らない。怒ったのは息子に対して一回だけ。ポール・ダノが真面目なおとうさんやってる・・・!!!!という衝撃。

母親のほうが最初から「もしやADHDなのでは」と思うくらい素っ頓狂で、躁鬱で、幻聴のような夢を見るし、顔は可愛いけど自由すぎてどうなの?子供みたい、って思っていました。がそれは杞憂ではなく本当に悪い方向へ進んでいくのでちょっと驚きでした。

私は自分の母にも父にも問題はありまくると思っているので、共感はするものの、ちょっとどうかなと…。 

しかしですよ、息子サムは母の自由人芸術体質を引き継ぐものの、それであまり苦しむほどでもないんですよね。

なんか、ザ・バットマンのぼっちゃんと比較すると断然楽そうに生きているなと思いました、、

いじめもあるものの、カメラマンとして活躍するし、結局ガールフレンドもできるしで、そんなに無茶苦茶落ち込むとかでもなさそうだった。 しかも結局裕福だからカメラ買うのに一苦労、とかでもないし。

なんともパンチの無い内容でした。


個人的によかったなと思うのは、随所に変態的芸術家おじさんが出てきて、裕福な家庭でのほほんと自由に映像を撮るおぼっちゃんなサムに警告をしていくシーンです。

「芸術はお前を切り刻むぞ。ほんとうにいいのか」と。


私は特に最近思うんですが、私は、結婚しようと思えばできたし、妊娠する能力も出産する力もあったと思います。でもどうしてもその気になれなかった。気に入った相手がいないから、ということもできるのですが

私はフェイブルマンズの母親みたいになってしまう可能性が大だったから、どうも直感的にそれから逃げていたのだと思います。

今まで、多くの男性が私にブチギレてきました。男性はうまくいかないとすぐにキレる。特に交際や結婚の願望を砕かれるといちいちものすごい怒ります。私が直に断らなくても。 

私は男女交際においては確実に直感を優先させるべきだなと感じています。トラブルになると感じたらどんな手段を講じてでもその男性から逃げるべき。男性は直情的に瞬間的に暴力をふるう傾向にあるため、簡単に殺されてしまう可能性があるからです。

「芸術は孤独だ。家族とも切り離される」という風な警告をされますが、それはある意味芸術に生きる人間にとっては幸福なのです。私は、自分のことをクリエイターと定義することはあまりありませんが、本当にお金だけを稼ぎたいならこの仕事を選んだとは思っていません。ビジュアルデザインは結局はクリエイティビティが仕上げるものであります。そこにどうしても芸術性がからんでくるからです。

ものをつくりたい!と願う人、ものをつくっていないと鬱になってしまうような人は、孤独であるべきだし、孤独にならないと時間が確保できません。そのくらい、時間というのは確保するのが難しいと感じています。


私は生まれた時から孤独だったけれど、それは私が選んだことなのか、ずっとわからずにいました。

でも、この映画を観て思ったんですけど、やっぱり私は孤独になるべくしてなり、孤独から芸術の道を選んだのだと確信しました。そして、やはり長い年月をかけても「普通の人」にはなれませんでした。戻れないのではありません。最初から孤独でした。

そういう人はどうあがいても普通の家族をつくったり、普通の仕事には就けないと思います。事務員の面接でもはっきりそう言われたことがあります。ですが、それは悲しむべきことではありません。みんなと、違う力を持っているだけなのです。

寂しいとか一瞬でも思ったら、それを絵にしたり、映像にしたり音楽にしたり、複合芸術にしてもいい。わたしたちはそういう人種なのだと思います。

大事なのは普通になれないということから、「絶対に目をそらさない」ということです。これは迂回なので大量の時間を無駄にしますし、自分に傷をつける自傷行為です。普通になろうだなんて努力するのは違っていると思います。最低限のマナーだけでいいのです。

2023年3月12日日曜日

Everything Everywhere All at Once 通称「エブエブ」観てきました

アカデミー賞を総なめにしようとしている恐るべきモンスター映画「エブエブ」。どんなもんやと観に行きましたがまんまとやられました。涙なしでは観られない、壮大でありながら、実に普遍的な日常の愛の物語でした。

「愛」をテーマにした映画はそれこそ挙げるのもアホらしいくらいに多数存在します。

このテーマで描くこと自体は全然いいんですけど、もう使い込まれて擦り切れてしまった、愛の物語をどう別の視点から料理するか、だと思うんですよね。

その点では100点満点を超えていると思いますね。マルチバースだし、別の宇宙にまで果てしなく物語を広げるのに、すごい勢いで小さくまとめるその手腕。広げた風呂敷を、あっけないほどにあっさりと、収束させるあの脚本力はすごいものがあるなと思いました。

別にSFにする必要もなかったと思うんですが、やっぱり面白いですよね。特に冒頭はマトリックスの1作目を思わせる面白さがあります。マトリックスでは平凡な会社員プログラマーが。エブエブでは平凡以下の主婦が。「世界を救ってくれ。本気を出してくれ」と懇願されるわけです。まずそこで最初の1/3の展開は楽しめますね。どういう法則でその世界が動いているのか。エブエブの場合はコメディ要素がかなり強いのですが、登場人物的には真剣そのものです。 

クリストファー・ノーランとかリドリー・スコットには絶対描けない奇妙奇天烈すぎるその世界観。あまりにも真面目な人だと耐えられないと思います(日本には多そう!)。

ジョーダン・ピールのノリとか、ゴールデンカムイの不真面目な部分とか斜め上の展開が理解できる人なら大丈夫だと思います!が、史上稀に見るカオス具合ではありました。

あと観客が女性だとさらにのめりこめるのではないでしょうか。

私もすごく共感するところがあって。

例えばあの時、バカな彼氏と結婚なんかしていたらどうなっていただろう。その後婚活パーティーでマッチングした人とちゃんと付き合おうと努力していれば?福岡移住がもっと早かったら?福岡ではなく、外国に移住していたら?それとも沖縄に引っ越していたら?どうなっていただろう。

女性には男性より少し多めの選択肢が用意されています。大きいのは「出産と育児」です。これによりキャリアが分断される人は結構多いと思います。実際妊婦の欠員補充で2回入社したことがありますが、復帰しても実質週の半分くらいしか働けないし、安定してきたと思ったら2人目を妊娠で、また産休。たまに仕事なめくさってる主婦もいて独身の私は結構イライラしました。

主人公のエヴリンが、「結婚しなかった自分」が別の宇宙でそれはそれは輝いているのを見て、「私はあなたなしであんなに輝いているのよと、旦那に見せたい」と懇願するのですが、そのセリフのリアル感よ。 

旦那にしてみれば、立つ瀬がありません。

ただ、今女性の生き方は多様性が叫ばれています。

結婚しなかったほうがよかった、というのは多くの既婚女性が一度は陥る感覚だと思うんですよ。

でも本当にそうでしょうか?

映画を観れば、答えは出ると思います。

私はその後の展開でかなり泣かせていただきました。

結婚したほうがよかったのか、しないほうがよかったのか、実はどちらも、正解ではないと思っています。

例えば、私は彼氏を振り切って別れてしまいましたが、うまくいかないのが100%わかりきっていたのです。だから絶対に間違っていないと言い切れます。

でもエヴリンはどうでしょう?彼女は自らその男性の手をとった。子供が産まれたときも喜んでいたし、今だってとても気にかけている。彼女が「輝いている」と思った別の宇宙の自分が「良い」とは限らない。その場の主人公の彼女は、正しい選択をしたのだと思います。

よく婚活をしている女性が陥る幻想、「結婚をすれば幸せになれる」という思いこみも違うんですよね。

自分が結婚したいと思う人がいたからした、でいいんですよ。

結婚したいと思う相手がいないなら、昔みたいに無理やりよくわかんない男性の支配下に置かれる必要はないと思いますね。

念のため言っておきますが、この映画は結婚の話ではありません。それがエヴリンの選択に強い影響をもたらしているだけです。

一番大きい問題は娘。娘は難しいですよね~、それに子供が親に逆襲するのってとても怖いところあると思うんですよ。

父親も問題ですし、税務署にいるおばさんも問題だし、娘の取り巻きも問題だし、別宇宙の人も同じ顔の人が存在する。けど、彼らにはそれぞれの幸せがある。

 

キャラクターとしては「ウェイモンド」が大きなキーパーソンじゃないかなと思いましたし、気に入りました。役者のキー・ホイ・クァンは、インディ・ジョーンズ魔宮の伝説で目立ってた、あの小さな中国人の男の子で、当時は「なんてうるさい少年だよw」って思ってたんですけど、、

驚くべきことに、彼の声があまり変わっていませんでした、、www

ですが!今回は、ウェイモンドは色んな宇宙に存在するので、それぞれバージョンが異なります。私は最初に指示を出してくる通称アルファ版の彼が結構好きでした。まあ、でもあれは、優秀だけど単なるミッションインポッシブルと言えば言え…。

やっぱりオリジナルが一番いいね、と最後は思えるのがこの映画の凄いところだと思いますね!

あと、ミシェル・ヨーとキー・ホイ・クァンは本物のアクションスターで、ジャッキーやジェットリーと仕事してた人たちなので、ものすごいアクションがカッコいいですね。ちょっとむちゃくちゃなシーンが多かったですが、動きはやっぱり綺麗でした。

なのでSF設定を利用した無茶苦茶なアクション映画って感じだと思うんですが、私はやっぱり、これほどまで上手に「愛」を説明できる映画ってあんまりないと思うので、そこを一番評価したいです。 

また、アメリカ受けした要素は、やはりアメリカンドリーム。「不可能だと思い込まない」こと、「絶望を覆していくこと」というもうひとつの夢のあるテーマじゃないですかね。

2023年3月10日金曜日

今更ながら、「シェイプ・オブ・ウォーター」観ました

恥ずかしながらこの映画のことは、デス・ストランディングで知りました。というかギレルモ・デル・トロ監督自体をデスストで知ったんですよ。

ナイトメア・アリーは監督名でこの人は高評価を受けているから凄い参考になるだろうなと思って観に行ったのですが、期待通りの感じでした。画面に隙が無いんですよね。ちょっと頑張りすぎかと思うくらいのこだわりを感じます。画作りがわざとらしいくらいに完璧。

特に本作は照明へのこだわりをすごく感じました。

また冷戦という設定からの、小道具大道具、セットへのこだわりもすごいですね。

お話は童話のように始まり、ファンタジーのような展開でありながらも、主人公が成人しており周りも大人なので、大人の事情がふんだんに盛り込まれています。だからこそ、大人が観るファンタジーとして、よくできている。逆に言えば、大人になってもこういうのが観たいよね、という童心をくすぐる内容でもあります。

私はE.T.を思い出しました。コロナ禍でたくさん昔の映画をTVで流してくれた時期がありましたが、E.T.が一番素直に泣けました。

あの映画のいいところは、異世界から来た宇宙人を友人として捉え、決して研究しようだとか、金にしようとしないところで、それをする大人たちを敵として捉えていたところ。

SFなのに、宇宙人のことを研究しようともしない。あまりにもピュアすぎて、涙が出ました。スピルバーグって、あの時すでにだいぶ大人なはずなんですけど、設定にこだわったSF映画もつくれたのにそういう要素を完全に排除しているところが凄いと思いました。

本作もそんな感じの話です。

ただ、ちょっと私が引っかかったのは、大人の恋愛の話なので、セックスについての話題が出てきたりするのが、生々しくて嫌だなあというところです。

それ以外は実にシンプルで、E.T.ともあまり変わらないかもしれません。ですが、時折すごく「人生って虚しくて儚いな」と思う言葉が散りばめられていて、、

これはギレルモ監督の癖なんですかね?ナイトメアアリーなんてそればっかりでしたもんね。

人生は失敗の積み重ねだ。(これ英語だとshipwreckって書いてあって結構怖い)

私の存在は私の目しか知らないんだよ。僕らは、遺物なんだ。

そんな言葉がしょっちゅう出てきて退廃的な感じがしました。

そういう理由から子供向けとはいいがたいし、R15はそうだと思います。これ、大人向けなんですよね。

そして負け犬要素が強めの清掃人であまり美人でもなく喋れない主人公。ゲイで売れない絵描き、冷めきった夫婦の奥さん、いつ捨てられるかわからないスパイ。彼らが、主人公イライザの愛を理解し、共感しすることで、半魚人は守られていきます。

やわらかくレトロな音楽が包み込む、芸術的な作品だと思いました。

また、イライザの女優さんには確かに共感がもてるし、少し大げさな芝居が上手でした。しゃべれないから、感情は大きめに出すんだと思うんですが、普段はとてもおとなしいのでギャップがありました。色々な表情を実に巧みに使い分けますよね。すごく地味だったイライザが、途中からヘアバンドや靴が赤になったりと、細かい変化も見逃せません。

あとなぜかスパイのお兄さんが好みでした。きちんと生きているんだけど、ついついスパイの道を外れてしまう…見た目や喋り方がかわいいのもあいまってお気に入りのキャラクターでした。


ただ、私が子供なんですかね、もうちょっと、子供っぽいファンタジーの方が好きかもしれません。多分恋愛ものが苦手なんでしょうねw

変な生き物が出てくる映画なら第9地区がやっぱりトップランクですね。あれは、生々しい下ネタを「ゴシップ(ギャグ)として」扱うからよかったです。主人公は最後まで奥さんに連絡を取ろうとしていて、なんかそれがね、すごく沁みたんですよね、そういうののほうが好きかも。